今日も時間は無駄に流れていき、ぼくはいいようもないやるせなさに襲われている。こう言ったことがいったい何年続いたのか、考えると怖くなる。久しぶりに何か書こうと思って、パソコンの前に座った。さっきまでいろいろ言葉はあったんだけど、パソコンが立ち上がり、いざ書こうと思うと、頭が空っぽになる。
いつだかハワイに行ってきた。またハワイ。もういい加減いいんだけど、お金も時間もないし、ここにい続けてはだめになるから行ってきた。飛行機の中で隣のおばさんが話しかけてきた。おばさんは一人でハワイに行くとのこと。告別式に行くのだそうだ。誰の告別式なのかはわからない。おばさんは一人旅が不安らしくしつこく話しかけてきた。ハワイにはもう数え切れないほど行っている、だがいつも主人と一緒だった、主人がなんでもやってくれたのでよくわからない、ぼくはそうですか、大変ですね、と返事を濁し、いつものぼくはお節介なのになぜだかそのおばさんとは関わり合いになりたくなく、本を読んだ。内田樹教授の『映画の構造分析』。『エイリアン』の分析ではかなりしらけたが(だってあれは『精神分析入門』をはじめて読んで取り憑かれ興奮した学生が書いたようだ)、読み続けるうちにそのしらけもかなり巧妙に仕組まれているもののような気がして、一気呵成に読んだ。一気呵成というはかなり大げさだけど。何回か読書を中断し、いろいろと考えた。とりとめもなく。ポケットに入れておいたメモ帳にこちょこちょと書き込んだ。旅の空にぼくは浮かれていたのか、沈んでいたのかいまそのメモ帳を見つけることが出来ないのでわからない。もうすぐハワイに着くというアナウンスがあった。窓の外を見ると飛行機はお日様を追いかけるかのように曙の空へ向かっているのだった。夜と朝の境界がはっきりと空に見えた。日本時間の午前2時頃、早朝のハワイに着く。だがぼくはまだアメリカ合衆国への査証免除のカードを書いていない。隣のおばさんもそうだ。おばさんはざわざわしだした。いいのかしら、もうすぐつくけど、さあ、スチュワードが持ってくるでしょう、みんなに配っているようでしたし、そうかしら、もう着くみたいよ、おばさんはどこかに行った。スチュワードにカード、カードと言ってきたらしい。スチュワードはあわてて持ってきた。忘れていたらしい。ぼくは自分の分を書くとおばさんのを手伝った。飛行機はもう着陸態勢を取り、斜めになっていた。
ホノルル空港に着くとやはり嘘のような青空だった。長時間狭い飛行機の中に閉じこめられていた乗客は堰を切ったように四散した。やっと旅らしくなってきた。ぼくは思った。やっと旅らしくなってきた。この青空を見るためにここに来たのだった。
空港からワイキキまでのバスの中、外を見ると大きな虹が出ていた。虹は何色に見えるか?有名な問題だ。虹はぼくを歓迎しているようだった。誰もがそんなことを考えただろう。誰もが考えるようなことをぼくも考えたのだった。
その日なにをしたのかあまり憶えていない。ホテルのチェックインまでの時間レストランにいた。『映画の構造分析』をもうすぐ読み終わるところだったので、読んだ。大きなパンケーキとアイスティーを飲みながら。アイスティーを5杯くらい飲んだ。ぼくはよく飲む。酒はあまり飲まないが、とてもよく飲む。たいていの人は驚く。そしてまたメモ帳に何か書き込んだ。ホテルに荷物を置くとABCで1ドル19セントのござと99セントの水を買い近場の海に行った。ワイキキビーチはとんでもなく人がいて海もきたないので行きたくなかったけど、もう疲れていて遠出は出来なかった。なにしろその時間ぼくは24時間以上一睡もしていなかったのだ。次善の策としてワイキキビーチに連なる陸軍博物館の裏にあるビーチに行った。『映画の構造分析』はもう読み終えていて、『フラナリーオコナー全短編集』を持って行った。日差しが強く、目が痛かった。サングラスを日本から持ってこなかったことを後悔した。明日rossで買おう。少し寝ようと思ったけど、ちっとも眠れなかった。それからなにをしたのか、憶えていない。